酔っぱらいのおまけ

 夜道はしんと静まって、冷えている。正月の熱気も引いたまちのなかには、正月飾りがぽつぽつと取り残されているばかりで、飲み歩いて騒ぐ者の姿もない。ただ、すぅすぅと気持ちよさそうに眠っている総士の息遣いだけが耳元で響いている。
 楽団の打ち上げのあったレストランから、ふたりで暮らしているマンションは徒歩で十分程度だ。オートロックを解除し、エレベーターで最上階まで上がって、角部屋を目指す。暮らす場所は変わったけれど、この「最上階の角部屋」という条件は変わっていない。
 一騎は総士を背負ったまま玄関のドアを開けて、電気をつけた。

「そーし、ただいまだぞ」
「ん~……、た、だぃ……ま」

 むにゃむにゃとくぐもった声が首元のあたりをくすぐる。一騎は「声になってないぞ」と笑って言いながら、ほとんど眠っている総士のからだをゆっくり廊下に下ろした。後ろに倒れないようにしがみつかせたまま靴を脱がせると、自分も靴を脱いでもう一度総士を背負い上げる。
 家を出る前に暖房をつけて温めておいた総士の部屋に入って、くにゃくにゃのからだをベッドの上におろすと、総士はそのまま、ぱふん、と、布団のうえに仰向けにころがった。しばらく、ぼうっと呆けた顔をしていた総士は、ふんふんと鼻をならして、きもちよさそうに、大きく息を吐く。

「……いい、におい……」
「今日は一日、よく晴れてたからな。外で干しておいたんだ。でも総士、そのままじゃ寝られないだろ。ちょっと着替えよう。ほら、起きて」
「んん……」

 総士のからだを支えるようにして腕を引っ張ると、だるそうにしながらも、身を起こした。今のうちにと、分厚いコートをはぎ取り、ニットとインナーをまとめて引っこ抜き、洗い立てのパジャマを頭からかぶせる。「足、伸ばして」と言えば、少しだけ目が覚めてきたのか、「じぶんでやる」と言って、履いているジーンズをのろのろ脱ぎ始めた。これなら任せも大丈夫だろう。
 一騎はキッチンへ移動して、沸かしてから放置し、適度にぬるくなっているであろう白湯を湯呑にそそぐ。それを、楽団のひとたちに渡したクッキーの余りと一緒に盆に乗せた。
 部屋に戻ると、総士は一応着替え終わり、ベッドに座っていた。ただ、脱いだ衣服を整える、というところまでは思考がまわっていないのだろう。一騎は苦笑して、床に投げ出されたジーンズを拾ってベッドの上に置き、総士の隣に腰かける。

「総士、白湯、飲めるか?」
「ん……」

 湯呑を差し出すと、自分で両手で持って、ちびちびと飲む。そのくちびるが可愛くて、ほほえましく見つめていると、まるで一騎の心を読んだかのように「ん」と総士がくちびるを一騎のほうへ突き出してきた。

「へ?」
「きす」

 するんじゃないのか、と、総士がきょとんとした顔をするので、ふふ、と笑いながら、軽く口づける。白湯では誤魔化せなかったアルコールのにおいが、つん、と香る。

「酒臭い」
「……いやか」

 しゅん、と、あからさまに総士が落ち込んだ顔をするので、「いやじゃないよ」と言ってもう一度口づけた。酔っぱらった総士は言葉がたどたどしくて、そのくせ素直で、かわいくって、困る。記憶は飛ばないらしく、翌朝、すべてを覚えている総士はたいてい恥ずかしがるのだけれど、それでも酔っぱらうのをやめない、ということは、この時間が決して嫌なわけではないのだろう。
 クッキーをつまんで、白湯を飲み終わり、さぁもう寝て良いぞと総士を布団に転がしたところで、総士は不満そうに、一騎の手を取った。

「ん? どうした?」
「こい、かずき」

 ぱふぱふと、総士が自分の隣のスペースを叩く。「いや、俺、まだ着替えてないし」と断ろうとすると、むっと総士が顔をしかめた。

「おまえがいないと、ねられないだろう」
「……着替えるのも待てないのか」
「まてない。はなれるな、ぼくから」

 こういうの、絡み酒って言うのだろうか。総士の場合、甘え酒とか、我儘酒とか、そういうほうが、合っているような気がするのだけれど。
 振り切って着替えてくるのは容易いけれど、この、酔っぱらった総士の言動に弱い一騎は、「はいはい」と零しながらそのままベッドに上がる。総士が寝入ったところでベッドから抜け出して着替えるしかないだろう。それをなぜだか、めんどくさい、とは、思えないのだ。満足したように、ふふ、と笑いながら、一騎にすりよってくる総士のことが、どうしようもなく可愛くて、幸せだな、と思う。

「かずきぃ……」

 とろとろの声でまどろみながら名前を呼んでくるくちびるに、おやすみ、と、もうひとつキスをおとした。



2020.11.04 文庫ページメーカー初出
よっぱらいふわとろ城くんはたまに書きたくなる