こんなのぜったい手放せない

 おだやかな朝のひかりを、まぶたのむこうに感じる。そっと目を開ければ、視界にはまばゆい太陽のひかりと、ひかりに透けてしまいそうな亜麻色がひろがる。寝起きでぼんやりとしていても、それが愛しい存在であることはすぐにわかる。ゆうべ抱きしめて眠ったままの体勢で、総士が一騎の腕のなかですうすうと寝息を立てていた。一騎の胸元に握った手を重ねて、すこし背中を丸めて、額を一騎に押し付けるようにして眠るこどもみたいな姿を、きっとほかの誰も知らない。おなじ布団で眠った日に、こうして総士が気をゆるしきった姿を見せてくれることが一騎はなによりうれしい。
 朝ごはんをつくるまで寝かせておいてやろう、と、起こさないようにそろそろ布団を抜け出し――かけたところで、ぐっ、と、シャツをつかまれた。後ろに倒れかけて、「うわ」と声を上げ、なんとか後ろ手でからだを支える。いったい誰が――なんて間抜けな疑問が浮かびかけ、総士以外にいないじゃないかと冷静な自分がつっこむ。顔だけ振り返れば、背後で眠っていたはずの総士がよろよろと身を起こし、ぽすん、と、一騎の肩に擦り寄るように顔をのせ、背中から腹に力の入っていない手をまわす。
「そ、」
「……いくな」
 ぐしゃぐしゃに乱れてあちこちに跳ねた寝癖のひどい髪――最近くせ毛が目立ち始めて本人は気にしているらしいが、一騎はとても気に入っている――も、掠れて低い声も、まだ総士が眠りから完全に覚めてはいないことを伝えてくる。こどもみたいにからだも温かい。それなのに、たしかに聞こえる声で、「……ぼくを、ひとりにするのか……」などと、ふだんなら絶対に聞けないことばを重ねてくる。
 総士はとにかく寝起きが悪い。これは絶対に寝ぼけていて、起きたら自分が何を言ったかなんて覚えているわけがない。――でも、それでも、それってつまり、無意識に、本音を言っているということではないのか?
「そ、そ、そう……」
「……んぅ……」
 寄りかかってくるからだの重みがぐっと増した。耳元にやすらかな寝息がかかって思わず「ひっ」と声を上げた。くすぐったい。慌てて、からだをひねり、また眠ってしまったらしい総士のからだを抱え、布団に横たえる。すう、すう、と眠る顔はおだやかだが、眉がひくひくと寄せられて、どうにも居心地わるそうだ。試しに布団に戻ってそのからだを抱きしめてみると、細く長く、安堵したような息が漏れ、総士の寝顔がふにゃりと笑む。
 ――うわあぁぁ!
 叫びそうになって、けれどなんとか一騎は声を抑え込む。叫んだら起こしてしまう。起こしてしまったら、このむずがゆく愛しい時間が終わってしまう。
「……おまえほんとに……」
 ほんとになんなんだ。かわいい。むねがぎゅっとなる。てばなせない。いとしい。ゆるゆるとゆるみきった頭にふわふわした感情が浮かんでは溶ける。これは自分もまだまだ寝ぼけているんじゃないか。
 朝ごはんがどれだけ遅くなったってかまわない。むしろ今はむねがいっぱいで、ごはんなんて入らない。
「……そぉし」
 ぎゅうぎゅうとあたたかなからだを抱きしめて呼ぶと、んん、と、満足そうな吐息が聞こえた。