春のもぐらたち

 しゅんみん、あかつきを、おぼえず。
 起きたばかりでうまく動かないくちびるを開いて、総士がむにゃむにゃ言いながら一騎の視線からのがれるように、もぞもぞ掛布団のなかへ引っ込んだ。やったことはないけれど、昔なにかで見た、かつての日本で流行ったというもぐらを叩くゲームの動きになんとなく似ている。もちろん一騎には総士を叩くなんて乱暴をはたらくつもりはない。
 布団の中に入れずに枕のうえに取り残された亜麻色の髪は絡まってぐしゃぐしゃだ。後でゆっくりきれいに梳いて結んでやろうと思いながら、一騎ももぐらみたいに総士のいるねぐらへ潜り込む。
 暗い布団のなかで背なを丸めた総士はまぶたを閉じている。いつも思うのだけれど、こんなに潜り込んだら息苦しくないんだろうか。一騎はもうめげそうだ。数日続く花冷えは、寒がりな総士にはこたえるのだろうけれど、それにしても。
「……窒息するぞ」
 総士の顔を引き寄せてぱくりとくちびるに噛みつく。酸素を求めるように、ゆるく閉ざされていたくちびるをわり開いて食むように口付けたところでついに総士はもぐら――ではなく、狸寝入りをやめた。
「ふ……ぁ、ぅ、か……、ん」
 乾燥しているくちびるを潤しながら、一騎の名を呼ぼうとしては途切れる、寝起きのふわふわした声を飲み込む。いつまでも堪能していたかったけれど、さすがに、呼吸が苦しくなってきて、限界はすぐにおとずれた。
「……は、だめだ、いきぐるしい」
「……じゃあするな」
 ぺち、と総士が一騎の顔を押しやるようにして、もぐらのねぐらから、ふたりで顔を出した。新鮮な冷たい空気を吸いこんで大きく吐く。
「だいたいおまえ、春眠どころかいつも暁を覚えず、だろ」
「そこまでじゃない」
 むっとした総士が言いながら一騎をにらむけれど、まだどうにも眠たそうだ。ほんとうはたくさん構いたいし構ってほしいのだけれど、やっぱり無理やり起こすのはかわいそうだなと思う。朝ごはんを作るのは遅くてもいいかとあきらめて、あまったるい温度をまとったからだを抱きこんだ。
 一騎がいっしょに二度寝を決め込むことを察した総士が力を抜いて、暖を取るように一騎の首元にすり寄ってくる。もぐらでも狸でもなく、猫みたいだなぁと一騎は思いながら、その背中をゆっくり撫でてやる。布団に潜りこまなくたって、一騎がしっかり温めてやればいいのだ。
「……総士といると、俺も、あかつきをおぼえずだなぁ……」
「ぼくのせいに……するな……」
 むにゃむにゃつぶやいた声は、すぐに、ゆったりとしたふたつの寝息に変わった。