いつもより少し長い夜



「あらかじめ、集めたプレゼントには適当な番号をつけているので、くじを引いて、その番号と一致するプレゼントを持って帰ってください」

 狭いゼミの部屋にあるテーブルのうえには、ごちゃっと大小さまざまな袋や箱が積み重ねられていた。そこには説明のとおり番号札が貼ってある。今日で大学の授業はいったん終了で、明日からは年末年始の休みになる。ちょうど今日がクリスマスだということもあって、みんなで最後にプレゼント交換をしよう、ということになったのは数週間前のことだった。誰がどのプレゼントを持って来たかは主催した先輩しか知らず、みなランダムで誰かのプレゼントが当たる、という形式だ。総士は誰に当たっても良いだろうと、珈琲と紅茶の詰め合わせを――一騎がアルバイトをしている喫茶店のオリジナルのものだ――提出していた。

「次、皆城の番な」

 と言われて差し出されたくじを引くと、十一、と書いてある。机の上にあるプレゼントのなかから該当の番号を探し、ラッピングされた小さめの箱を見つけ出す。一応その場でプレゼントを開けて、まっとうなものだったり、悪ノリしたものだったりを覗きあうところまでがこのプレゼント交換の目的であるようだったので、総士も一応、それに倣って箱を開け――ちょっと固まった。

「皆城、何が入ってたんだ?」

 隣から覗き込まれて、まぁ隠すのもおかしいだろうと箱の中を見えるように傾ける。すると、彼も「げ」と微妙な顔をした。それもそうだ。入っていたのは、コンドームだった。それも、いわゆるバラエティパックらしく、様々な種類のものが詰め込まれていた。
 悪ノリで入れたのは明らかで、かと言って、目くじらを立てるほどのものでもなく、総士は嘆息しつつふたを閉める。犯人捜しをしたところで仕方がない。誰かに押し付けるわけにもいかないのだし。
すると、その総士の行動が意外だったのか、「持って、帰るわけ?」と今度は興味津々といったようすで、ちょうど総士の得たプレゼントの中身を見ていた周りの数人に問われる。

「そこらに捨てるわけにもいかないだろう? 押し返す相手もわからないのだから」
「それは、まぁ……そうだけど」

 そういうわけで、と、総士が――どういうわけなんだ、と誰も突っ込めなかった――さっさと箱をかばんの中へ入れてしまったので、総士の近くにいなかったゼミ生は、彼が何を受け取ったのかすら、知ることはなかったのだった。

        *

「――総士、これ、どうしたんだ?」

 帰宅してから、件の箱をかばんの横に放置していたところ、片付けてやろうと思ったのだろう一騎が中身を見て、困惑した表情を浮かべながら訊いてきた。総士がふだんそういったものを買うことはあまりないから、どうして、と、思ったのだろう。おまけに明らかに贈り物の仕様だったから、変に勘違いをしているのかもしれない。

「ゼミで、匿名でランダムのプレゼント交換があった」
「ああ……、うちの珈琲と紅茶を買ってくれたやつか」
「そこで僕に当たったのが、それだ」

 なるほどなぁと言いながら、一騎はソファで寛いている総士の隣に腰をおろす。

「素直に持って帰ったんだな?」
「当たった相手が狼狽えるところが見たくて入れたのであれば悪趣味だ。それに乗ってやる義理はない。単に、面白そうだから、と思っていたのであっても、相手の期待するような反応をするのがいちばん癪だろう」
「で、特に何も反応せずに、淡々と持って帰ったのか?」
「そうだが?」
「ふうん……」

 何かを言いたげに、箱のなかに入っているコンドームのパックを眺め出す一騎に「なんだ?」と問いかけると、一騎はちらり、と、総士を見て、言った。

「……つけてする?」
「……」

 ――総士が一騎と、いわゆる、そういった行為をする関係であるにも関わらず、あまり総士がそれを買うことがないのは、総士自身が一騎に対し、いらない、と、言っているせいだ。もちろん、するときは、ある。ないわけではない。ただ一騎が買って来るもので足りていて、総士が買い足すことがないのである。もちろんあらゆることを考慮すれば、つけたほうがいいのは分かっているし、総士はそういったことに慎重なほうでもある。――あるが、しかし、一騎との行為において、隔たりがあるのが――好きではないのだ。だからできるだけ、総士は、コンドームをつけない行為を望んでいた。
 明日から大学は休みで、一騎のアルバイトも休みだ。そういう時はたいてい、性行為をする流れになる。

「なんかいろいろ種類あるみたいだし、その、総士が、きもちよくなれるのも、あるかもしれないし……」
「……ぼくは……、」

 かち、かち、と、時計の音だけが部屋に響く。もう何度も抱き合ってきたというのに、未だにこうして、口に出して確認しあうのが妙に恥ずかしく、ふたりして赤くなってそわそわしてしまう。
 総士としては本当は――今日だって、そんなもの、つけずにしたい、と、言いたいのだけれど、一騎がちょっと、試してみたい、と好奇心をそそられているのも理解できる。だから、折衷案を取った。

「……最初は、つけて、後は、ないほうが、いい……」

 それはつまり、何回かする、ということを自分からねだっているようなものだ。総士が耳まで赤くしていると、一騎が総士の手を握ってきて、「も、もうちょっと、無理かも……」と情けない顔で言う。――お互い風呂はすませて、後は寝るだけだ。なにを、躊躇することがあるだろう。

「……ぼくも、」

 と、そう言った瞬間、いよいよ限界を突破したらしい一騎に、ひょいと抱え上げられた。


 ――結局箱のなかに入っていたコンドームは、年が明け、休みが明けるころには、すっかり使い切られていたのだった。



2023.04.20
初出:2022.12.25 文庫ページメーカー