終章

 朝起きると、一騎がじっと総士を見つめていた。
 背後の窓からは、カーテン越しに朝日が眩くふりそそいでいる。窓越しに、ちゅん、ちゅん、と鳴く雀の声がした。ああ、こんなに明るくて穏やかな朝は久しぶりだ。
 二枚の布団を並べて寝ていたはずなのだが、いつの間にか、一騎が総士の布団の中へ入ってきていたらしい。一騎の腕はしっかりと総士のからだに回されていて、随分と近い距離から瞳を覗きこまれている。
 目を逸らさないままでいる一騎に「…なんだ?」と掠れた声を出せば「きれいだなと思って」と言いながら、一騎は総士の頬に触れた。
「きんいろだ」
 ああ、瞳が変色しているのか、と、総士は気づく。「こわくないのか」と訊けば、「なんでだ?」と返ってくる。
「俺の目も、こないだまでは、真っ赤だったんだって。自分で見ていないから、わからないけど。お前の目はすごく…きれいだ。いつものほうが好きだけど」
 素直な言葉に、総士は思わず小さく笑った。きれいだと言いながら、いつものほうが、好きなのか。
 一騎は総士の輪郭を確かめるように、頬に触れている手をゆっくりとすべらせる。首筋をなぞり肩までおりて、胸元へまわった手は、布団のうえで緩く握っていた総士の手を包んだ。そして、総士から視線を逸らさないまま口を開く。
「そういえば、思い出した。最初のころさ…フェストゥムのこと、すごく、きれいだって思ってたんだ。きんいろで…神様みたいだなって」
「ああ…、僕も、初めて見たときにそう思った」
 絶望をもたらす敵だと知りながら、それが何億といういのちを奪ってきたのだと知りながら、目に映った眩いばかりのきんいろを、うつくしいと思った。真っ青な空に輝くきんいろ。それはまるで。
「太陽みたいだったんだ」
 一騎はなにかをなつかしむような、悼むような、そんな顔をしていた。告白はささやかな声だった。まるで、幼いころ、夜更かしが見つからないようにふたりで布団にくるまって、おとなたちに内緒のはなしをしたときのように。
 一騎に、総士に、多くのひとびとに痛みや苦しみを与えたものたちは、もはやただの敵ではなくなった。人間から痛みを与えられ、憎しみを覚え、それでもなお、対話しようとするものがいる。一方、同じ人間であっても、対立し、言葉を交わしてもなお、わかり合えずに銃を向け合うものもいる。
 それでも、わかりあいたい。
 それでも、わかちあいたい。
 空がきれいだと言った彼のように、うつくしいきんいろの輝きで、多くのいのちを守った彼のように。
 一度傷つけあったとしても、それを赦しあい、認めあい、信じることはできるのだから。
 ここにふたり、こうして身を寄せ合って、存在しているように。

「…総士、あったかいな」
 たいようみたいだ。
 うれしそうに笑って、一騎は総士のからだを強く抱き込む。この世界にこれ以上の幸福はないと、そう、声で、態度で、一騎は伝えてくれる。もうこわくない。もうなにもおそれることはない。
「一騎」
 躊躇わず、総士は一騎のからだに腕をまわす。
 取り戻した、からだ。
 ひとつにはなれない、からだ。
 けれど確かにそこには、たったひとつ、互いの存在を結びつけるあかしがある。


 あたらしい朝の窓辺には、やさしいきんいろが、ふっていた。